インドのお酒事情──「飲めない国」ではなく「飲むことへの目線が違う国」
インド在住のインドビジネス専門家、株式会社hoppin CEO・滝沢頼子が、インドの最新ニュースをピックアップし、現地ならではの視点で解説します。ニュースの概要に続き、専門家コメントをお届けします。
インドのアルコール市場が急拡大している。2025年上半期のアルコール飲料販売量は前年比7%増と、世界最速クラスの成長を記録。インドは2031年までに中国・米国・ブラジル・メキシコに次ぐ世界第5位のアルコール市場になると予測されている。
成長を牽引するのは若年都市層だ。インドでは毎年2,300万人が飲酒可能年齢に達しており、この若い人口構造が市場の長期的な成長を下支えしている。都市部の若年層を中心に、クラフトジンや職人的なラム酒、アルコール度数の低いカクテルといったプレミアム志向・健康志向の飲み方へのシフトが顕著だ。
一方で、「健康に飲む」「翌日に影響が出ない飲み方」へのニーズも高まっている。「若い飲酒者たちは飲酒の儀式や社会的な体験には参加したいが、飲んだ後の悪影響は避けたいと考えており、この行動変化がマインドフルな飲み方の代替選択肢の市場を広げている」と業界関係者は指摘する。
専門家コメント(hoppin 滝沢頼子)
「インドってお酒飲めない国なの?」と日本人の友人からよく聞かれる。答えは「飲めない国ではない」だ。私が住んでいるグルガオンや、以前住んでいたバンガロールには酒屋もバーも多くある。ただお酒を出すには高額なライセンスが必要なため、日本のように「どのレストランでもお酒がある」わけではなく、「現地基準でやや高めの都市中心部のレストラン」で飲める、というイメージが近い。
問題は手に入りやすさより「飲むことへの目線」だ。実際に飲む人の割合は、女性1.3%・男性18.8%(国家家族健康調査NFHS-5, 2019-21)と日本より大幅に少ない。特に女性で飲む人は超少数派だ。
宗教が理由かと思っていたが、現地の友人に聞いてみるとそうでもない。ヒンドゥー教の教義というより、「飲酒する人はだらしない(浪費癖・働かなくなる)」「トラブルを起こす(喧嘩・家庭内暴力)」という社会的なイメージが根強いのだ。
だからこそ、飲む人でも「酔いすぎること」「二日酔い」への忌避感が強い。スクショにある調査でも同様の傾向が見えており、「翌日に影響が出ない飲み方」「健康に飲む」というニーズが強く出ていた。市場で「マインドフルな飲み方」が伸びているというニュースは、まさにこの感覚と一致する。
もう一つ興味深いのが「家族に知られたくない」という意識だ。私がよく一緒に飲む40代のインド人の友人は、両親と同居していてお酒を飲むことを親に内緒にしている。出張などで親の目がない時だけたくさん飲む、という話を聞いたことがある。「お酒を飲んでいること自体を後ろめたく思っているわけではないが、親戚や家族には知られたくない」というケースはよくあるようだ。
インドのお酒市場は確かに急成長しているが、「飲める量が増えた」より「飲み方が変わってきた」という方が実態に近い。日系企業がインドでお酒に関連したマーケティングや商品展開を考える場合、「豪快に飲む文化」ではなく「節度よく、スマートに飲む文化」として設計することが、インドの現実に即したアプローチになるだろう。
- 執筆者プロフィール -
滝沢頼子/株式会社hoppin
東京大学卒業後、UXコンサルタントとして株式会社ビービットに入社。上海オフィスの立ち上げ期メンバー。
その後、上海のデジタルマーケティング会社、東京のEdtech系スタートアップを経て、2019年に株式会社hoppinを起業。UXコンサルティング、インドと中国の市場リサーチや視察ツアーなどを実施。2022年よりインド在住。








