インド住宅市場、「買いたくても買えない」時代へ──価格高騰が生む新たな賃貸の現実
インド在住のインドビジネス専門家、株式会社hoppin CEO・滝沢頼子が、インドの最新ニュースをピックアップし、現地ならではの視点で解説します。ニュースの概要に続き、専門家コメントをお届けします。
インドの住宅市場が大きな転換点を迎えている。FY2025-26(2025年4月〜2026年3月)の主要7都市における住宅販売総額は6.65兆ルピーと前年比約20%増を記録した一方、販売戸数は前年比14%減少した。1,000万ルピー(約1,800万円)超の高価格帯物件が全販売の62%を占めており、「量から質・ブランド重視」への明確な構造転換が起きている。
価格上昇は購入希望者を直撃している。2026年3月、業界関係者は「主要都市では住宅価格が所得上昇を上回るペースで上昇しており、より多くの人々がより長期間、賃貸市場にとどまらざるを得ない状況になっている」と指摘した。
6大都市(ベンガルール・ムンバイ・デリーNCR・ハイデラバード・プネー・チェンナイ)の賃料インフレは2025年上半期に年率7〜9%と、2022〜2024年の12〜24%から落ち着きつつあるものの、依然として上昇が続いている。
金融環境は緩和方向にある。インド準備銀行(RBI)は2026年4月の金融政策委員会でレポレートを5.25%に据え置いた。2025年を通じてRBIが合計1.25%分の利下げを実施した結果、主要銀行の住宅ローン金利は現在7%台に近づいており、2022年以来の低水準となっている。
専門家コメント(hoppin 滝沢頼子)
2年前、私はインドの不動産事情についてリサーチを行い、都市中間層の住宅探しの実態をヒアリングした。そこで見えてきたのは、日本とは大きく異なる住宅市場の「生々しい現実」だった。
特に印象的だったのは「前の家から急に追い出された」という声の多さだ。「大家がリノベーションを始めると言って出て行かざるを得なくなった」「2年の契約が切れたが更新させてもらえなかった」といった経験が、インタビューした方々の間で繰り返し語られた。そしてそれが「賃貸の煩わしさから逃れたい」という購入動機につながっていた。
2年後の今、その状況はさらに厳しくなっていると感じる。住宅価格が所得上昇を上回るペースで上昇し、「買いたくても買えない」人が増えている。つまり、賃貸の煩わしさから逃げ出したくても逃げ出せない人が増えているということだ。賃料も年率7〜9%で上がり続けており、「大家に追い出されるリスク」と「家賃の上昇」の両方を抱えながら賃貸に住み続けるしかない層が、都市部を中心に広がっている。
一方で、販売戸数が14%減る中でも販売総額が20%増えているという数字は、インド不動産市場の「二極化」を示している。富裕層・上位中間層による高価格帯物件の需要は旺盛で、投資目的での購入も続いている。
2024年のヒアリングでも「どうせ毎月高い家賃を払うなら買った方がいい」「価格が上がり続けているので今のうちに買う」という声があったが、その判断は当時から見ても正しかったと言えそうだ。
インドの住宅市場は「買える人はより積極的に買い、買えない人はより長く賃貸にとどまる」という構造が固まりつつある。日系企業がインドで従業員の住居を考える際にも、この現実は無視できない視点だ。
- 執筆者プロフィール -
滝沢頼子/株式会社hoppin
東京大学卒業後、UXコンサルタントとして株式会社ビービットに入社。上海オフィスの立ち上げ期メンバー。
その後、上海のデジタルマーケティング会社、東京のEdtech系スタートアップを経て、2019年に株式会社hoppinを起業。UXコンサルティング、インドと中国の市場リサーチや視察ツアーなどを実施。2022年よりインド在住。








